〜ミルフィーユ〜


 

 

 

目を開けると腕から矢を抜いている彼が居た

 

 

 


信じられなかった、きっぱり逃げると言ったのに・・・

 

 

 


それに私を助けてくれた

 

 

 


「ぁ・・・、な・・・・・んで・・・・・?」

 

 

 


声になっただろうか?

 

 

 


「今は戦え」

 

 

 


声にはなったらしい

 

 

 


彼は今まで見たことのない武器で戦った

 

 

 


彼は自分に攻撃が当たるギリギリの所で魔物を倒していた

 

 

 


私をねらう魔物を優先してねらい、魔物の注意を自分に向けさせたりもしてくれた

 

 

 


簡単に言ってものすごく強かった

 

 

 

 


でも目に止まるのは、私をかばった時に出来た矢の傷だった

 

 

 


ドクドクと血が流れている、

 

 

 


矢は貫通こそしてなかったがやはり痛いんだと思う

 

 

 


左腕を動かすたびに顔が苦痛にゆがんでいる

 

 

 


回復魔法で早く回復させてあげたいが、そんなことをしている時間がない

 

 

 


魔物をみんな倒した、きっと30匹以上いたとおもう

 

 

 


彼が8割を倒している

 

 

 


戦闘が終わると休む間もなく彼は私を平手ではたいた

 

 

 


あまり痛くなかった

 

 

 


これくらい当然だろう、私は彼に迷惑をかけた、怪我までさせてしまった

 

 

 


「何であんなムチャをした」

 

 

 


そこまで怖くない声、おそらく任意的に抑えているのだろう

 

 

 


「・・・・・」

 

 

 


勇者だから、そう、勇者だからだ

 

 

 


私は勇者だからみんなを守らなきゃならない

 

 

 


昔から言われてきた事だ

 

 

 


剣を何度も習ったがそれでもうまくならず仕方なく魔法を鍛えた、

 

 

 


鍛えさせられた

 

 

 


教育係にもお父様にも『お前は勇者なのだから死ぬ覚悟で戦え』と言われてきた

 

 

 


仕方ない事だ

 

 

 


これが勇者の定めなのだから、でもこんな自分を誇りに思う、

 

 

 


私の命と引き換えにみんな助かるならよろこんで死を受け入れる

 

 

 


みんな幸せ、それでいい

 

 

 


彼は目を逸らそうとする私のあごを持ち上げ目を無理矢理合わさせる

 

 

 


「・・・・・・・」

 

 

 


それでも何も言わない私の事を見て彼はため息を漏らした

 

 


そして信じられない事を言った

 

 

 


「大怪我するところだったんだぞ?国民を助けようとするのは良いが

 

 

 


もう少し自分を大事にしろ」

 

 

 


『自分を大事にしろ』彼はそういった

 

 

 


そんな事を生まれて始めていってもらえた

 

 

 


彼の口調は穏やかになっていて、それでいて怪我をしたことを怒っていなかった

 

 

 


「確かにお前は勇者だ、魔王を倒し人々を守るのが役目かも知れない

 

 

 


でもな?お前も人なんだ、何処にでも居る女の子なんだ、だから無理するな

 

 

 


もう少しわがまま言ったって、自由になっても良いと思う」

 

 

 


嬉しかった

 

 

 


人として見てくれている、女の子として見て入れてくれている

 

 

 


わがままを言っても自由になっても良いといってくれる

 

 

 


嬉しすぎて泣きそうになる

 

 

 


「でも、でも私・・・、勇者だから・・・、みんなの期待にこたえないと・・・」

 

 

 


そう、私はそのために生まれてきたのだから

 

 

 


みんなにも期待されている

 

 

 


その期待にこたえなきゃいけない、頑張らないといけない

 

 

 


ずっとそのプレッシャーを背負っている

 

 

 


彼は優しくこう言った

 

 

 


「ならその時はこう考えろ、お前が居なくなったら悲しむ人もいるだろ?

 

 

 


国民のことを考えずにその人たちの事を考えろ

 

 

 


まず自分の命のことを考えろ、

 

 

 


国民のことを考えるにしろ何にしろ、お前が魔王を倒さないと意味無いだろうが」

 

 

 


私はついに泣き出してしまった

 

 

 


そっか、そう考えればよかったんだ・・・

 

 

 


でも私の事を考えてくれてる人なんて居るのかな

 

 

 


彼は泣いてる私をためらいながら抱きしめてくれた

 

 

 













しばらく彼の腕の中で泣いていた

 

 

 


悲しいわけじゃなく、嬉しくて

 

 

 


早く退いてあげなきゃいけないのは分かってたけど

 

 

 


泣き止んでもしばらくそうしていた

 

 

 

 

頬に涙じゃなく暖かいものが流れた

 

 

 


紅く、生暖かいもの

 

 

 


・・・・・そういえば彼は腕を怪我していた

 

 

 


彼から飛び退いて急いで傷口に、回復魔法『ヒーリング』をかける

 

 

 


私の手から黄色い光が溢れ出す

 

 

 


「回復魔法も使えるんだな」

 

 

 


彼は何か喋らないといけないと感じたのか

 

 

 


そんな事を口走った

 

 

 


「はい、私も自分がマジシャンかプリーストか分からないんです」

 

 

 


職業は勝手に決まるわけじゃなく

 

 

 


自分で選ぶから自分が何の職業なのか分からない事なんて無いんだけど

 

 

 


私の場合は『勇者』であり職業なんて関係ないらしい

 

 

 


『勇者』がマジックタイプかナイトタイプかで決まる

 

 

 


ナイトタイプは近距離戦

 

 

 


マジックタイプは遠距離攻撃が得意

 

 

 


マジックタイプ自体珍しいのに私はもっと珍しいらしい

 

 

 


剣なんてまったく扱えないのだから

 

 

 


聖剣は2種類ある

 

 

 


ナイトタイプ用の『エクスカリバー』

 

 

 


切れ味がよく、どんなに硬い鉱石でも真っ二つに切れるという

 

 

 


普通の剣より少し重くて使いにくい

 

 

 


マジックタイプ用の『マジック・ソード・エレメント』

 

 

 


切れ味はそこまで良くないが、全ての精霊の加護が宿っていて

 

 

 


魔力が増幅される、噂では幸運も上がるらしい

 

 

 


軽くて使いやすいのでマジックタイプの勇者達が使っていた

 

 

 


でも私はそんな剣も扱えないダメ勇者

 

 

 


たまに本当に自分が勇者かも疑ってしまう

 

 

 

 


「おい。もういいって」

 

 

 


彼の言葉で我に返る

 

 

 


傷口はすっかり治っており、『ヒーリング』の癒しの光だけが優しく光っていた

 

 

 


魔法を止めて彼のほうを向く

 

 

 


『コツン』

 

 

 


彼は私のおでこのデコピンをして

 

 

 


「わるかったな、強く言い過ぎた」

 

 

 


と言う

 

 

 


きっと彼は自分のせいで私が泣き出したと思っている

 

 

 


誤解を改善しよう、・・・・・でも、なんて言う?

 

 

 


嬉しくて泣いた?

 

 

 


きっとそんな事を言ったら彼は『普通だろ』と言う

 

 

 


むしろ今までどんな人生を送ってきたのか心配をするかもしれない

 

 

 


そんなことを考えているとお城の騎士団さん達が戻ってきた

 

 

 


私は意味も無く彼を連れてお城に走り去った

 

 

 


「わっ、あんま走んな!こけるんだけど!?」

 

 

 


彼はそう言ったが、この数日で彼の性格などは全部分かったつもりだ

 

 

 


最初は優しく、親切だったけど

 

 

 


最近は何かを聞いたら初めに嘘をついたり、からかってきたりする

 

 

 


でもアノ兄妹を助けたりさっきのようにかばってくれたり。本当はすごく優しい

 

 

 


鋭い推理に冷静かつ適切な判断、行動。頭も本当はさえている

 

 

 


さっき知ったのは戦闘の時は桁外れに強いと言う事

 

 

 


アノ妹が叩いたりしたら『痛!痛いって!骨折するからぁー!』などとふざけている

 

 

 


兎に角この程度の走りでこける人じゃないので聞かなかった振りをする

 

 

 


自分でも私にしては強引だと思う、

 

 

 


彼に心を許してしまっているのかもしれない

 

 

 


こんなに強引なことは友達にも、それに男性になんて出来るはずの無い私なのだから

 

 

 


人目につかない所まできて、彼を解放する

 

 

 


「ふぅ、何?こんな人気の無いところに連れ出して?」

 

 

 


意味ありげにニヤつく彼

 

 

 


彼のその言葉で顔が熱くなる

 

 

 


確かに突然無理に腕を引き人気のない場所に連れ出したら明らかにおかしい

 

 

 


「あ、・・・・・あの、・・・・ええ・・・・・そ・・の・・・」

 

 

 


戸惑い

 

 

 


なんていえば誤解が解けるかの言い訳探し

 

 

 


誤解?誤解どころか私はなぜ彼を此処に連れてきたのだろうか?

 

 

 


それ自体に戸惑い余計にあたふたしてしまう

 

 

 


彼はなぜかいきなり笑い出した

 

 

 


私はただ単に笑っている彼の顔を不思議そうに見ていると彼は・・・・・

 

 

 


「悪い悪い、冗談だってば、予想通りの反応するからおかしくってさぁ・・・・クク」

 

 

 


・・・・・・・・またからかわれた

 

 

 


最近は特にからかわれる事が多い

 

 



それは彼が心を許してくれた証拠なのだろうか?


 

 

 

私は恥ずかしさと悔しさから少しすねた顔をしてみた

 

 

 


「ははは、悪かったって」

 

 

 

 


彼は笑いながら私の頭を『クシャリ』と撫でた

 

 

 

 


「それより勇者様はこれから行われるナンタラ式に出なくてよろしいので?」

 

 

 

 


彼は私の頭に手を置いたまま聞いてきた

 

 

 

 


ナンタラ式?何の事だろう?

 

 

 

 

私が迷っているのに気づいたのか、彼は言う

 

 

 


「あ〜、アレだってアレ、助かったわけだしさ、なんか式があるんじゃねぇの?」

 

 

 


あ、そう言えばそんな感じの式があったような気がする

 

 

 


別にやらなくてもいいのだが、なにやら国民の信頼などを受けるために

 

 

 


国王と王女、王子と姫の挨拶みたいな事をしなくてはならない

 

 

 


王子はこの国にはいないので私とお母様、お父様が挨拶をしなくてはならない

 

 

 


ここに彼を置いておく分けにはいけないので

 

 

 



彼をお客様用の寝室まで案内して渋々王の間まで足を運んだ