「えー次の問題、愛川、解いてみろ」

 

今は眠たい数学中・・・

 

オレが寝てもだれも起こさないだろう

 

あの日、観覧車から降りたら

 

雅達は何も見ていないふりをしてくれた

 

3人はオレの家族のことを知っている

 

いや、無理やりしゃべらされたと言うべきか

 

出会って間もない時に、家族について問い詰められたのだ

 

この高校の入学式の時にこいつらに出会った

 

オレ達はみんな別々の中学で、一度も顔をあわせたことなど無かった

 

運命だろう

 

神は信じない、運命は信じる、

 

この3人と居るのも運命だろう

 

よくアニメなどで運命に逆らい生き延びたなど

 

運命に逆らうなどのシーンがあるが

 

アレも運命だろうと思う

 

奇跡など無い、神など居ない、あるのは運命だけ

 

オレはそう思っている

 

出会い方は簡単なものだった

 

どこにでもある簡単な出会い

 

だが、オレにはものすごく大事な出会いに思えた

 

実際、みんなバラバラのクラスなのに

 

いつも一緒にいる

 

不思議な話だ、こんな何のとりえもないオレと居て何が楽しいんだろう?

 

櫟に聞いたら、何とも簡単な答えが返ってきた

 

『はぁ?オレ達4人そろってるから楽しいんだろ

何言ってんだよバカ』

 

アイツらしい答えだなと思った

 

だが、オレを必要としてくれていると言うことがうれしかった

 

どんな理由でも、

 

『あの時生き残れて良かった』と、思えるから

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

チャイムが鳴ると同時に授業が終わる

 

教師が教室から出て、生徒たちが騒ぎ出す

 

これから、飯の時間だ

 

いつもどうりならあの3人がココにやってくる

 

ソレをねらって女どもが群がる

 

オレの所まで来ると流石に追ってこない

 

オレはそんなに恐いのだろうか?

 

オレがA組だから、最初に来るのはB組の櫟だ

 

次がC組の坂井、その次がD組の雅

 

だが今日は来ない、毎月この日はココに来ないのだ

 

少し寂しいような気がするが一人で食うことにする

 

たぶん美珠と食事をするのだろう

 

オレの弁当は来るときにコンビニで買った物だ

 

自慢じゃないが料理が全く出来ない

 

おっと、早くしないと昼休みが終わるな

 

・・・・・・まだまだ時間あるか・・・・

 

カバンの中から、弁当と『アルもの』が入ったふくろを取り出し

 

廊下に出て外に行く

 

その間、思いっきり避けられてたが、もう慣れたことだ

 

ココは、古びた別館の前

 

この別館は、もう生徒会室と倉庫代わりでしかない

 

しかも生徒会があるのは一ヶ月の終わりだけ、なのであまり使われない

 

だから人が居なくて良い、居るのは不良と

 

別館の前の飼育小屋にいるうさぎぐらいだ

 

別館の中に入る、暗く薄気味悪い

 

ここに来たらいつも行く場所がある

 

階段を上り、右の突き当たりの部屋に行く

 

「見てろよ、この書類を・・・・」

 

「おおぉぉぉ、もっと破けーーーー!!!」

 

「オレにもやらせろよ」

 

不良の声がする、

 

生徒会室の前、ガラスごしに不良たちが物をあさっているのが見える

 

ガラガラ

 

ドアを開け、中に入る

 

『いつも』の、不良3人組がこちらを向く

 

オレの顔を見るとリーダー格のやつが

 

「やば!逃げろ!!」

 

と、別のドアから逃げる

 

あとの2人も、続いて出ていく

 

散らかった部屋を見て、ふとつぶやいた

 

「・・・・・・・・またか」

 

オレがこの別館の存在知ったのが六ヶ月前

 

始めに来たときにあの不良たちがココで今のように暴れていて

 

何が気に食わないのか、イキナリ殴りかかってきた

 

あまりケンカは好きではないが、仕方なく返りうちにした

 

その日から、ここに来たら必ず生徒会室を掃除している

 

この不良たちには見覚えがあった、当時の宝石泥棒事件の犯人に『された』人達だ

 

不良たちは否定していたが、すぐ犯人扱いされた

 

理由は簡単、当時の名のある不良でそこにいたから、ただそれだけ

 

それだけで犯人扱いされた人たちだ

 

不良たちが校長と言い争っている姿を見てしまったことがある

 

不良達が『やっていない』と必死に言っていた

 

不良達が盗んだことを否定している姿は、ウソなど付いていないように思えた

 

だが、犯人にされてしまった

 

事は不良達が、盗んだ物を弁償することで終わった

 

当時の学校は、甲子園を控えていたので退学にはならなかった

 

だが結局、宝石は見つからなかった、やはり盗んでないのだろう

 

無理やり弁償させられた仕返しにこんな事をしているのだろう

 

だが、今こんな事が知れたら、間違いなく退学だろ

 

こんな奴ら退学にしてやればいいのだが、オレはかなり面倒見が良いらしい

 

飛行機事故の日からオレは、

 

『みんながどんなに死んでも、不幸でも、オレだけ幸せなら良い』から

 

『オレが死のうが、不幸になろうが、他のみんなが幸せなら良い』に

 

考え方が変わったから、何時も掃除をしている

 

オレが来たら、何時も散らかっている

 

だが、今のように顔を合わせたのは初めてあった日以来だ

 

オレを見たら逃げるというのは、少し傷つく

 

・・・・・・・よし、頑張るか・・・・・

 

まず、倒れているイスや机などを元に戻す

 

あとは簡単に散らかっている物をカタズケルだけなのだが

 

面倒なのは書類などの修正だ、何時も幸いガラスなどは割れていない

 

持ってきた袋の中から、『アル物』を取り出す

 

そう、アル物とは、書類の内容を書き直すための紙なのだ

 

バラバラになった紙を直すのまでやるのは、流石に辛い

 

今の時期、6月にやる行事がないのであまり書類がないのがありがたい

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

午後の授業が始まるが、オレはここで書類の修正をする

 

なので、いつもこの日は午後の授業をサボるのだ

 

書類の修正の手順はこうだ

 

1、       バラバラの書類を、1枚に組み立てる、

 

何枚もの書類がバラバラで本当に組み立てるのが難しい

 

2、       それを解読して、パソコンに打ちこむ

 

なんと書いてあるか解りにくい、幸いココにパソコンがあるのがうれしい

 

3、       それを紙にコピーする

 

これはコピーするだけで簡単だ、だが時間がかかる

 

4、       順番どうりに並べる

 

番号が書いてなかったら解らないな

 

コレで終わりだ

 

簡単だと思うやつがいるかも知れないが、早くて2時間30分はする

 

遅かったときは5時間も掛かったことがあった

 

それをこれからやるのだ

 

          ・・・・気が遠くなる・・・・・・

 

 

 

☆                 ○              ×

 

 

 

「・・・・・・んん・・・・・」

 

あ・・・・れ・・・・・?

 

いつの間にか寝てしまった・・・

 

確か、全部終わらせて休憩をしていたところだった

 

部屋も外も暗く、空から来る月明かりだけが頼りだ

 

時計を見ようと思ったが、暗くて見えない

 

電気をつければ目立つので止めた

 

そろそろ帰ろう、そう思い立ち上がろうとした時きずいた

 

「・・・・・・・・なんだこれ・・・・・・」

 

壁の力を借りて、上半身だけ起こして寝ていたオレに

 

毛布が掛けてある

 

『生徒会室』と書いてあった

 

ココの校舎は古いので、冷暖房が効かない

 

だから、寒い季節はこの毛布を使うのだ

 

なぜこんな物が掛かっているのだろう?

 

寝る前に掛けた覚えがない、無意識に掛けたのだろうか?

 

ああ、きっとそうなのだろう

 

考えこんでも答えなど出ない、出るのは仮説だけなのだから

 

毛布を段ボール箱の中に戻し、別館を出る

 

本館にも別館にも明かりは灯ってなかった

 

そんなに寝てしまったのだろうか?

 

帰る前にうさぎ小屋をのぞく

 

ココのうさぎは、飼育係にも見捨てられたうさぎだ

 

だからオレが毎日エサなどをあたえてやるのだ

 

エサと水を変えてやり、パパッとホウキでフンをはらっておく

 

最後に黒と白の二匹のうさぎを、なでてやり

 

裏門を飛びこえて帰宅路を歩く

 

辺りに歩いている人など居ない

 

『グゥゥ〜〜〜〜』

 

腹の虫が鳴く、

 

そういえば、朝も昼も食べていない

 

それにもう夜だ、朝に買ったコンビニ弁当を取り出す

 

ふたを開けたがあまりパッとしない

 

やはり、毎日この230円弁当だからだろうか?

 

とにかく食べる、いつもと同じ味がする

 

毎日朝、昼、晩、全部コレだ

 

量の割には安いし、栄養も満点だ

 

味は・・・・・・・・・まぁまぁだ

 

櫟たちと外食するときは、結構高い物をたのむときが多い

 

全部弁当を食べ終わっても、まだ食い足りないので

 

コンビニに寄ることにする

 

「いらっしゃ・・・・・・あぁ、何だ君か」

 

「・・・・・・・・・・・それって差別ですよ」

 

オレを見た瞬間あいさつを止めた店員さん

 

「常連さんにあいさつなんていらねーよ」

 

なんて言う店員さん、この人はココの店長さんだ

 

年は教えてくれないが、おそらく20代前半だろう

 

学校と家に挟まれといるココに、朝、夜と寄るのですっかり顔を覚えられた

 

オレが来るときはいつもこの人だ、昼は他のことをしているらしい

 

ついでに時計を見る、10時、もうそんな時間か

 

カタズケが終わったのは確か5時くらいだった

 

4時間以上寝てたのか・・・・・

 

「いつもの?」

 

「・・・・・・・・・いえ、580円の特製弁当2つください」

 

特製弁当は、ココだけで作っている

 

大人気オリジナル弁当だ

 

OK、1160円なのだが1000円で良いよ」

 

「・・・・・・・・・・ありがとうございます」

 

いつも、中途半端な小銭をまけてくれる

 

その優しさが痛いと感じることがある

 

櫟たちの優しさも痛いと感じる

 

今はこんな風に優しいが、いつかは離れてしまうのだから

 

一度植え付けられた感情を取り除くのは難しいのだから

 

「はい、弁当どうぞ」

 

2つの弁当と割りばしの入った袋を受け取る

 

作りたてなのか、まだ暖かい

 

「・・・・・・・それじゃあ」

 

「おう、またな〜」

 

手を振ってくれる店長に手を振り返し店を出る

 

しばらく歩くと家が見えてくる

 

家は両親と住んでいた一軒家だ

 

家の前でカバンを漁り、カギを探す

 

カギを見つけドアを開けて中に入る

 

「・・・・・・・・ただいま・・・・」

 

返事が返ってくるわけではないが、『ただいま』と言うのが日課だ

 

リビングに行き、テーブルに弁当を出す

 

まだ暖かい・・・・・・・・・

 

台所に行き冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐ

 

お茶を冷蔵庫に戻し、お茶の入ったコップをリビングのテーブルにおく

 

イスに座り割りばしを割る

 

「・・・・・・・・・いただきます」

 

パク

 

美味しい・・・・・

 

だれが作ったのか知らないが、作りたてはウマイ

 

30分位で全て食べ終わった

 

風呂に入り、歯磨きをして、ベットに入る

 

いつも最後は同じ事をくり返しているな・・・・・

 

風呂、歯磨き、寝る、

 

いつも違うことをしているが根本的に変わってないと

 

寝る前が教えてくれる

 

別に良い、オレの行動でとっくの昔に退学させられるはずの不良が

 

今を送れているのだから

 

さて、寝るか・・・・・・・・