・・・よくよく考えてみれば東京タワーまでいく金を店長さんは持っていないだろう

 

店から離れるはずのない人なので、ここまでくれば安心

 

朝の犬はもう寝ているらしい

 

「ねぇ氷河君」

 

玲の声、一々返事をする気にもならない

 

「聞いてる?」

 

仕方なく顔を玲のほうに少し曲げる

 

これで話を聞いている事が分かったようで話を続ける

 

「あのさ、過去の記憶が少しアヤフヤになってるんだよね?」

 

・・・・・・・・・・?

 

何でこの子がそれを知っているのだろう

 

学校でも事故の事は、特に記憶の事は雅たちにも言ってない

 

記憶の失踪で勉強のやり直しもしたが少し内容を聞くとすぐに理解できた

 

どうやら結構簡単に思い出せるらしい

 

でもどうしても母親の顔や父親の顔が思い出せない

 

だからアルバムを見て必死で思い出そうとするも

 

やはりそこまで甘くないらしい、全く思い出せない

 

だから正直諦めていた、別に思い出さなくても何ら支障は出ない

 

だが高崎の懐かしい雰囲気と、誰にも言っていない秘密を知っている事

 

関わりたくないのだが仕方ないだろう

 

「・・・知ってるか?俺は記憶のことを誰にも言っていない」

 

少し嫌みったらしく言った言葉に

 

高崎が『しまった』と俯きながら口を塞ぐ

 

やはり怪しい・・・・・・が

 

俺は面倒事は嫌いだし、一々言いたくない事を問い詰めるのも面倒だ

 

だから俺は何も言わずただ前を向いて歩く

 

時期に高崎が顔を上げながら

 

「聞かないの?何で知ってるか・・・」

 

と恐る恐る聞いてくる

 

だが俺は前を向いたまま顔で

 

「・・・言いたくなったら言うだろ、一々問い詰めるのも面倒なんだ」

 

と答える

 

すると高崎はため息をつきながら

 

「はぁ、昔っからそうだよね」

 

と俺の表情を伺いながら言う

 

昔から・・・、俺は知らないがそうなのだろう

 

やはり高崎とは何度か接触していたのか

 

だが俺は覚えていないので昔話をされても困る

 

「そこ右だから」

 

前方のT字形に分かれた道

 

俺の家は左だ

 

「・・・後は一人で帰れ」

 

と足を進めながら言う

 

結構元気そうだから襲われても大丈夫だし

 

家も然程遠くないだろう   

 

高崎は少し拗ねたように

 

「何?此処まで送っといて終わり?」

 

と聞いてくる

 

此処までも何も俺の勝手だろうに・・・

 

「・・・アンタもう十分元気そうだしな、俺の家は左だ」

 

高崎は少し驚いたような顔をした

 

そして目を細めながら言う

 

「へぇ、氷河君の家ってこの辺なんだ〜、今度探してみよっかな」

 

「やめてくれ」

 

即答だ

 

俺はただでさえ近所付き合いが悪い

 

別に何もしていない、何もしていないから近所付き合いが悪いのだ

 

町内のゴミ拾いなども全部試験と重なって出れないし

 

何かの行事に出る気もない

 

だから女が俺の家に足を踏み入れでもしたら近所のオバサンどもが何を言うか・・・

 

「仕方ない、今度あたしの家に来る事で許してやるか、それじゃまたね!」

 

そう言って手を振りながら走っていく玲

 

喋らなかったら普通に可愛いと思う

 

いや、ホント・・・・・、懐かしい・・・・・・?

 

何が懐かしいのか思い出しながら俺はそのまま帰宅した